薬剤師 ヒルマ薬局
比留間榮子氏

患者さんに寄り添い、97歳となったいまも現役薬剤師として勤める比留間榮子氏。薬だけではなく食も含めたサポートを実践し、患者さんが心を打ち明けてくれるまで優しく相談に応じています。ファーマスタイルの取材にも快く応えていただき、大先輩から新人や若手薬剤師さんに向けて、薬局業務における対人関係や患者さんとの関わり方、求められる薬剤師の姿などをお話いただきました。

戦後から患者との繋がりを大切にし続けて70年

私は、戦後から薬局で働き続けてもう70年以上になります。戦前より、池袋のあたりで父が薬剤師をしており、私は見よう見まねでその手伝いを始めて、次第に薬局の世界に入っていきました。

戦後、地平線が見えるほど焼け野原になった東京は、食べる物も身の回りの物も十分にありませんでした。びっしりとビルが立ち並ぶいまの東京をみると、とても感慨深いです。当時はいまと違って病院の数が少なく、全ての患者さんを受け入れることが難しい環境でした。体調が悪いと来局された方には薬局にある製剤をお渡しし、飲んだら必ず様子を聞かせてほしいとお伝えしていました。良くなったという報告を聞くだけでも嬉しいですと患者さんにお伝えして繋がりを作ってきた結果、いまでも患者さんとお付き合いが続いているのだと思います。

失敗から学ぶ 丁寧な対応の大切さ

長い薬剤師の仕事のなかでは、失敗やつらいこともたくさんありました。過日出版した私の書籍「時間はくすり」にも詳しく書いていますが、午前中に処方せんを持って来られた患者さんが、仕事帰りに薬を受け取りに来られたことがありました。準備はできていたものの、夕方の忙しい時間で、すぐに薬をお渡しできなかったことで、怒って帰られてしまいました。その日の業務が終わった後に、その患者さんのご自宅へお詫びに伺いましたが、「もう分っているからいい」とけんもほろろに断られてしまいました。

その時、ドアを閉められないように押さえて丁寧にお詫びを続けたところ、患者さんが心を開いてくれて、ご家庭の大変な状況を話してくれました。患者さんの方にも色々な事情がありますので、事務的に済まさずに丁寧に対応することが、患者さんとの関係や服薬の継続に大切だということを実感しました。

処方せんの記載内容に誤りがあった際、誤りに気づかずそのまま薬を渡してしまい、患者さんの体調が悪くなってしまったこともありました。患者さんは再度病院に行って、正しい薬を処方してもらって大事には至りませんでした。この経験から、薬剤師としての処方薬のチェックの重要さを痛感しました。また、この時は薬局内だけの話にせず、先生にも直接会いに行き、「薬局でも気づかなくてはいけないことでした」とお伝えしました。医師とのこうしたやり取りが関係を築くことにも繋がると思います。

薬局はチームプレイ

仕事では、気が合わない同僚と一緒に仕事をしなければいけない環境に配属されるかもしれません。私の勤める薬局に、勝ち気な薬剤師が入ってきたことがありました。初めて来た人なのに、その現場に何年もいるように何でもひとりで仕事を進め、以前から勤めていた人とぶつかる場面もありました。

薬局の仕事はチームプレイです。ひとりでやり過ぎてしまうと、周りの人が仕事をしにくくなったり、他人任せになってしまったりすることがあります。結果、お客様が迷惑を被る事にもなりかねません。そこで、まずは先輩に聞いてから仕事をし、周囲と会話をするようその人に勧めました。「人より何でもできるから良い」という考えが強いと周りがみえず、自分が改めるべき点に気づかない人もいます。最初は反発されるかもしれませんが、話していくうちに分かってくれるようになりますよ。根気は必要だと思いますが。

変化に適応し知識を積み重ねる 時には遠慮なく他人に聞く

薬局で働くうえでは、知識を積み重ねて新しくしていかなければなりません。私は85歳頃まで電卓やそろばんを業務で使っていました。しかし、若い人たちの様子をみて、パソコンやインターネットを使わなければ何もできなくなってしまうと感じて覚え始めました。全ての機能は使えなくても、85歳からパソコンは覚えられるのです。

私の長い薬剤師人生のなかで、後発品がこれほど多く出てきたことも大きな変化でした。複数の名前がある後発品を覚えることや、医療機関によっては先発品を希望する施設もありますので、こうしたことも頭に入れておくのは大変です。

患者さんに自分が知らないことを聞かれたときは、「勉強不足ですみませんが、確認します」とあらかじめ伝えておき、同じ薬局で働く孫の康二郎に相談や、インターネットで調べて解決します。重要なのは、自分がそれを知らないことではなく、患者さんが知りたいということです。そのために、今日まで知らなくても良いので、明日知っておくことが重要です。

「薬、薬」と言い過ぎず、見守る姿勢をみせる

薬が嫌い、薬が怖いと思っている患者さん、飲んでいると嘘をついていそうな患者さんもいます。そういう時は「薬ばかりに頼るのはよくありませんが、薬を全く飲まずに治そうと思っても難しい体の状態なのです」ということを簡単に説明します。そのうえで「お薬をきちんと飲めば、快方に向かっていることがわかると思いますが、どうしても薬が嫌だと思ったときはいつでも薬局に来てください」と伝えます。薬を飲まなければならない、でも薬を飲むのが嫌で仕方ない、という気持ちは体調を余計に悪くしてしまうことがあります。薬から気持ちを少し離してあげて、「天気が良いときは散歩をして、気分転換に薬局に寄ってください」や「散歩のあとは身体を休めてくださいね」などの言葉を添えて優しく見守ってあげる姿勢も大事だと思います。

当たり前のことも伝える そして次回の来局に繋げる

初めて来局される方のなかには、今まで薬と縁がなかった人もいます。薬の大切さ、きちんと飲まなくていけないといった当たり前と思われるような話でも、意外と知らないこともあるのでちゃんとお伝えします。難しい話だけでなく、いろいろな話を取り混ぜて患者さんのことを聞き出していくと、次第に心を開いて話をしてくれます。

患者さんに継続して来ていただけるよう、話のついでに「今度はいつ来るのかしら」や「お薬はきちんと飲んでくださいね。何かわからないことがあれば、いつでも聞きに来てください」という繋がりを作っておきます。「困ったら自分一人で考えないでね」といつでも相談に乗ってあげられるように声をかけることもあります。そうしているうちに、「私の顔がみえたから、用はないけど寄ってみた」と言ってくれる患者さんもいました。

患者さんの相談役を目指して一歩ずつ成長する

現代では少しでも具合が悪くなると病院へ行く人が多いですが、医師は忙しいのでひとりの患者さんに長い時間をかけて話を聞くことも難しいでしょう。そこで薬剤師ができるのは、できる限り患者さんが医師に訊けなかった話をしてあげたり、聞いてあげたりすることです。

初めて仕事に就く人は何事も初めてで、最初が肝心だと思います。何事もわからないことをわからないままで過ごさずに、自発的に遠慮なく先輩に訊いていくのです。薬剤師の仕事は覚えることも難しいことも多いと思いますが、これはどうしたらよいのかと確認して、自分から仕事をみつけて一歩一歩進んでいくことが大事だと思います。

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比留間 榮子 氏 プロフィール
1923年東京生まれの97歳、しかしまだまだ活躍中。薬剤師歴75年で、ギネス認定の世界最高齢の現役薬剤師。ヒルマ薬局小豆沢店に勤務し、地域の人たちの心のよりどころとなっている。孫で薬剤師の康二郎氏とともに、薬局の理想の姿を目指し奔走する毎日。